懐かしくもあり、切なくもあり――モラトリアムな季節

2017.08.31 Thursday 22:11
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    大学受験に失敗した和也は予備校に通うため仙台で独り暮らしを始めた。小学5年生のときに4ヵ月だけ住んだO町での思い出が真っ先に心に浮かんだ。閉塞した浪人生活に悩む和也の前に、初恋の相手であるナオミが現れる。高校時代の彼女とも、よりを戻しつつある和也の心は激しく揺れ動く――。昭和50年代を舞台に、混沌とした青春期を瑞々しく描いた成長物語。(内容紹介より)

     

    『モラトリアムな季節』(熊谷達也著 光文社文庫)

     

    先日読んだ『七夕しぐれ』の続編である。ヤッタ!

     

    前作は、主人公のカズヤが小学校5年生のときに仙台市に引っ越してから去るまでの4ヵ月に起きたホットな出来事が語られていた。理不尽な差別に対抗する子どもたちの勇気あるお話である。今回は浪人生となった和也の物語だ。

     

    仙台から戻り、田舎町で中高時代を過ごしてきた和也は、再び仙台市に住むことになった。大学受験に失敗し、予備校へ通うことになったのだが、田舎町にはない予備校に通うために仙台に出ることになり、アパートを借りて住むことになったのだ。

     

    久しぶりに仙台にやってきた和也は、かつて住んでいたO町――ユキヒロやナオミたちがいた場所へと向かった。彼らとはあれ以来会っていないし、ナオミとはしばらく文通をしていたのだが、それもここ数年途絶えていた。彼らがいまどうしているのか、和也は気にしていたのだ。

     

    だが、その場所にはかつて住んでいた五軒長屋はなく、新しいアパートが建っていた。念のため郵便受けの名前を見てまわったが、知っている名前はなかった。街の様子は変わり、エタ町と呼ばれた場所はすでになくなっていた。彼らはどこに行ってしまったのだろう……。

     

    そういう和也も、かつての正義感あふれる少年だった面影はない。ブリティッシュ・ハードロックを愛し、優柔不断なくせにちょっと自信過剰、というか勘ちがいしていることに気づかないような、どこにでもいそうなモラトリアムな青年になっていた。

     

    受験勉強のために家族から離れた和也は、仙台の一人暮らしでおおいに羽を伸ばす。好きなロックを存分に聴ける喫茶店に入り浸り、映画を観て、好きな本を読んだ。予備校に通うのは二の次である。

     

    すぐに、仙台の短大に通う高校時代に付き合っていた女の子にもばったり再開した。彼の初恋の相手はナオミだが、音信不通となってからは、ナオミのことはただの思い出になっていた。偶然再会した女の子とは、ケンカ別れしたわけではなく、いまでも好きだったから、和也は彼女にもう一度付き合ってくれないかと告白する。結果はOK。お互い仙台で一人暮らしの身だし、楽しそうなことが起こりそうだと、ますます受験勉強に身が入らなくなる和也なのであった。やれやれ

     

    そんなある日、彼女に誘われていったライヴで、和也はナオミと再開を果たす。彼女とナオミは同じ短大に通う親友で、ナオミがバンドのメンバーとしてピアノを弾く姿を観にきたのに、和也が付き合ったのだった。会場にくるまで、ふたりが親友であることを少しも知らなかった。ともかく劇的な再会である。おーっと!

     

    ライヴの打ち上げの居酒屋で、和也はナオミに聞きたいことが山ほどあったが、聞きだすことができなかった。昔のこととはいえ、お互いに好き合った者同士である。和也の隣に「カノジョ」がいる状態で、親密な話をするのは憚られた。だから、カノジョがトイレに立った隙に、和也はナオミに耳打ちする。「明日ふたりで会えないかな」と――。

     

    とまあ、こんな具合に和也の浪人生時代のことが語られるのだが、ところどころ「著者」が回想する形で、この時代の「自分」のことを冷静に分析してみせるのだけれど、そのコメントがいいのだ。

     

    たとえば、「モラトリアム」について語るシーン。

     

     もっとも、モラトリアムな季節とは、嫌いな自分に折り合いをつけるために必要な時間でもある、ということが、いまの僕にはわかっている。しかし、その季節の渦中にある本人には、その季節から抜け出す扉はまったく見えない。肥大した自己愛も、自身を抹殺してしまわないための、最後の安全装置であることに気づいていない。

     

    「差別」について語るシーンでは、

     

     他人と自分を比較するのは意味がないことだと、理屈ではわかっていても、自己を見つめようとするとき、他人との比較をせざるを得ないのは、群れなす動物としての性(さが)が人間の遺伝子に刷り込まれているせいだと、僕は思う。その結果、滑稽で悲しいことだけれども、本当は必要のない優越感や劣等感を覚えて一喜一憂するのが、人間という奇妙で哀しい生き物だ。たぶんそれが、この世界から差別がなくならない最大の原因のような気がする。

     

    ね、なるほどでしょ?

     

    モラトリアムな季節。ぼくにも確かにあったと思う。でも、未来が描けなくて不安になるとか、自分が何者になろうとしているのか、何がしたいのかわからなくて思い悩む……みたいなことはあまりなくて、ぼくの場合はただただ世間知らずでバカなだけだったような気がする。たぶんそれはいまもあまり変わっていない。おいおい

     

    さて、お話のほうは、結局、彼は二浪したが大学受験に失敗する。カノジョとはとっくに別れ、ナオミは就職して東京へ行ってしまった。それでもあきらめることなく三浪目に突入した彼は、今度は田舎の自宅で受験勉強に励むこととなり、粛々と勉強して浪人生活にピリオドを打つ。さらに、彼が本格的に小説を書き始めるまでには、まだいくつかの紆余曲折があるようで、それは第3部へとつづくらしい……と、ここまできたら最後まで読みますよ!


     

     

    JUGEMテーマ:最近読んだ本

    よりよく生きるために必要なもの――望み

    2017.08.30 Wednesday 21:58
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      東京のベッドタウンに住み、建築デザインの仕事をしている石川一登と校正者の妻・貴代美。二人は、高一の息子・規士と中三
      の娘・雅と共に、家族四人平和に暮らしていた。規士が高校生になって初めての夏休み。友人も増え、無断外泊も度々するようになったが、二人は特別な注意を払っていなかった。そんな夏休みが明けた9月のある週末。規士が2日経っても家に帰ってこず、連絡も途絶えてしまった。心配していた矢先、息子の友人が複数人に殺害されたニュースを見て、二人は胸騒ぎを覚える。行方不明は三人。そのうち犯人だと見られる逃走中の少年は二人。息子は犯人なのか、それとも……。息子の無実を望む一登と、犯人であっても生きていて欲しいと望む貴代美。揺れ動く父と母の思い――。(内容紹介より)

       

      『望み』(雫井脩介著 角川書店)

       

      本著者作品では、ずいぶんまえに『つばさものがたり』という、ちょっとファンタジックなお話を読んだ。ほんわかとして切ないお話で、本作とはまったくちがうテイストである。こちらは読者に“究極の選択”を強いるような心理サスペンスだ。

       

      そこそこいい暮らしをしている建築家一家が主人公である。

       

      建築家の石川一登が手掛けるのはおもに一戸建て住宅である。依頼者からの「ああしたい、こうしたい」という要望に耳を傾け、「家というのはそこに住む人たちの生活を反映するんですよ」などといいながら、それに合うような事例を挙げたり、自慢の自宅を見せたりして彼らの心をつかんでいく。真摯に誠実に。そして最後は「先生お願いします」となるように。なかなか人気があり、施工にあたってはいい業者との付き合いもできている。

       

      妻の貴代美は、以前は出版社で編集をしていたが、結婚して子どもができたのを機に仕事を辞めた。いまは、かつての仕事と関係の深い校正作業をフリーランスで行なっている。現役の頃には及ばないものの、そこそこの収入を得ていたから、一家の暮らしには余裕がある。高校生の息子・規士(ただし)と中学生の娘・雅のふたりの子にも恵まれ、彼らの暮らしはこれまで順風満帆だったといえるだろう。その夏、規士に異変が起きるまでは……。

       

      規士の夢は、プロのサッカー選手になることだった。過去形なのは、ケガのためにその夢が断たれたからだ。彼の実力を妬んだ先輩が、試合中にひどいタックルをしかけたため、規士は選手生命を絶たれるようなケガをしてしまったのである。以来、彼はサッカー部を辞めて、いまはフラフラと遊び歩いている。

       

      一登と貴代美はそんな規士を不憫に思い、遊び歩いているのも仕方がないと静観していた。そういう時間が必要なのだと思ったからだ。だがある日、規士が顔に痣をつくって帰ってきて、にわかに雲行きが怪しくなる。ケンカでもしたのだろうかと心配になって問いただしたものの、規士は「別に……」とそっけない。何があったかを話してくれようとはしなかった。

       

      さらに数日後、貴代美は規士の部屋の屑入れから、息子がナイフを買ったレシートを見つけて慌てる。不安にかられた彼女は一登に相談し、一登は息子からナイフを取りあげたのだった。

       

      そしてついに事件が起きる。規士が家に帰ってこず、連絡もつかなくなったのだ。それとときを同じくして、車のトランクから少年の遺体が発見されるという痛ましい事件が起きた。殺されたのは規士の中学時代からの友人で、彼と規士を含む4人が一緒に行動していたらしいことがわかる。車からは2人の少年が逃げていく姿が目撃されてもいた。殺された少年以外の3人のうち、2人が逃げたのだとしたら、もうひとりはどうしたのか?

       

      一登夫婦の苦悩の日々が始まる。逃げた2人のうちのひとりが規士だとしたら、息子は殺人事件の被疑者になる可能性が高い。しかし、少なくとも逃げているということは「生きている」ということでもある。逆に、逃げた2人のうちのどちらでもないとしたら、いまだに連絡がつかない理由は、息子が第二の被害者になった可能性があるということにほかならない。

       

      一登は、息子が人殺しなどできる人間ではないと信じた。だが、それは息子の死を認めることでもあった。

       

      一登の考えは頷けるように思えるが、ことはそう単純ではない。彼には守るべきものがある。それは家であり仕事であり名誉である。もし息子が人殺しということになれば、自分はそれらを失うことになるだろう。これまで通りの暮らしなど到底できっこないし、そうした現実を受け入れることに耐えられそうもない。息子が殺されていたとしても、人殺しの被疑者よりは被害者であるほうがましだという考えがあったのだ。

       

      それはあくまでも胸の奥深くに秘めておくべき本音であり、表立っての本音は、「息子に人殺しなどできるはずがない」という言葉に置き換えられたのだった。

       

      一方の貴代美もまた、息子が人殺しなどできる人間ではないと思うものの、でも息子の死を認めることは出来ない相談だった。たとえ人殺しとして裁かれることがあったとしても、それでも生きていてほしいと願った。生きてさえいてくれれば、あとはなんとしても自分が息子を支えていくのだと。

       

      こうして夫婦の意見が分かれ、マスコミの報道にも翻弄され、幸せだった家族が突然の危機に見舞われる。彼らは究極の選択を迫られたのだ。どちらにせよ「望みなき望み」という不条理の選択――。

       

      ふたりの気持ちは些細なことで右に左にと揺れる。その揺れ幅が大きいほど、揺り返しによって心が傷んでいく。その姿を直視することは、読者にとっても非常に苦しみをともなうだろう。心を揺さぶられずにはおれない。

       

      事件の顛末についてはここには書かない。

       

      結局、こうした選択をしなければならない状況をつくらないこと、それしかない。そのために必要なことを考えることが、親としての務めということになるのだろう。だが、現実は往々にして非情である。よりよく生きるために、ひとにはあらゆる現実を想起する力と、すべてを受けとめる柔軟性が必要不可欠なのだ。そのことを教えてくれる。

       

       

      JUGEMテーマ:最近読んだ本

      いつか行ってみたくなる!――水族館哲学

      2017.08.29 Tuesday 22:23
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        水族館について全てを知り尽くし、廃館寸前の水族館を独自の斬新な手法で蘇らせてきた水族館プロデューサーの著者が、数多ある水族館の中から30館を厳選し、その常識的な枠を超えた「展示」の本当の魅力や見所を紹介します。豊かな発想力を持つ著者が綴った紹介エッセイは目からウロコの連続。地球と生き物の命、日本のアニミズム、弱点を武器にする方法など、水族館の楽しみ方、奥深さについて縦横無人に語ります。また、全国各地の水族館を取り上げることによって、その地域ならではの特性や生き物、自然について学べるのも本書の特長。好奇心を持つこと、学ぶことの本当の面白さを体験できます。バブリングをするイルカ、癒しのクラゲ、愉快な海獣動物たち……オールカラーでたっぷりと水中世界の美しい写真も必見! 絶対絶命のピンチのとき、癒されたいとき――生きる活力が湧いてくる水族館へぜひ行ってみませんか?(内容紹介より)

         

        『水族館哲学』(中村元著 文春文庫)

         

        タイトルに「哲学」とあるように、単なるガイドブックではない。著者の水族館に対する見識や思想が散りばめられていて、それが楽しさやおもしろさを増幅している。とても楽しい本である。

         

        ぼくは水族館やプラネタリウムが好きで、若い頃はちょくちょく出かけていたのだが、最近はとんとご無沙汰である。その理由ははっきりしている。わざわざそうした場所へ出向かなくても、程久保川を歩いてカワセミくんたちに出合うだけで充分に“癒される”からである。でも、本書を読んだら久しぶりに水族館に行きたくなった。

         

        著者は水族館プロデューサーで、いくつかの水族館の立ち上げやリニュアルなどの企画に関わっているという。この夏話題となった「サンシャイン水族館」(東京/池袋)のリニュアルにも関わっているそうだ。素敵なお仕事ですねぇ〜。

         

        ぼくが水族館やプラネタリウムに遊びに行っていたのは、魚の観察とか科学的な好奇心を刺激されたりとか、そういう目的がないわけではないのだけれど、さっきも書いたように、単純に「癒されるため」である。何かを学びたいと思って魚を見ているわけではなく、ただボーッとマグロの回遊する姿を見ているだけで心が空っぽになって気持ちが落ちつく。それがいいのだ。

         

        それにつながることを、著者は「水塊」という言葉で語ってくれている。ぼくはこの言葉を本書で初めて知った。そして、「ああなるほど、ぼくは水塊を見にいっていたんだなぁ」と合点がいった。

         

        本書では、著者がおススメする30の水族館が紹介されていて、そのトップバッターがさきほど挙げたサンシャイン水族館だ。その紹介文のなかに「水塊」について述べている部分があるので引用させていただくことにしよう。

         

         この水族館に集まる人々の多くが、水生生物そのものよりも、それらの棲んでいる水中世界に浸りたくてやってくる人たちだ。どこまでも広がる青い水中、そこを漂う浮遊感、水による清涼感、水族館の水槽は潤いにあふれた非日常世界として、人々の心を癒し、生きる力を与えてくれる。それが「水塊」の力である。

         

        まったくその通りである。そして、こういう考えの人がプロデュースしている水族館が楽しくないはずがない。だから行きたくなる。

         

        ところで、30の水族館は4つのテーマに分けて紹介されている。サンシャイン水族館は「水塊の癒し」というテーマで紹介されている。この水族館のように立派な水塊をつくることができるのは、いわゆる資金力のある大きな水族館である。観る側としては、それはそれでありがたいことなのだけれど、「逆境からの進化」というテーマで紹介されている小さな水族館こそが、本書の白眉だと思う。

         

        施設は古く、かといって改装に使うだけの充分な資金もない。広告宣伝費だってない。そんな「きょうにも潰れそうだった水族館」が、逆境を逆手にとって独自の進化を遂げ、見事な復活を果たした……それが「逆境からの進化」という章で紹介されている。これらの水族館にはいつか行ってみたいものであるが、とりあえず本書を読んで想像を逞しくしておくことにしよう。

         

        そういえば……

         

        10年くらいまえのこと。大阪に単身赴任していたときに友人につれていってもらった立ち飲みバーには、壁面に大きなくらげの水槽があった。ブルーの照明に彩られた水槽には白く透きとおったミズクラゲが儚げに浮かんでいて、ついつい見惚れてしまったものだ。いまもあるのかなぁ〜


         

         

        JUGEMテーマ:最近読んだ本

        踊りたいけど踊れなくても幸せだね――踊れぬ天使

        2017.08.28 Monday 22:02
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          どんなに調理が難しい食材でも、心をほぐす一品に変えてみせます! 失踪した両親を捜すため、持ち込まれた食材で料理を作る“移動調理屋”を始めた佳代。結局、両親には会えなかったが、貴重な出会いと別れを経験。やがて松江のばあちゃんとの出会いが、佳代を変えた。シングルマザーやお年寄りなど、苦労している人たちのために全国に支店を開いてほしいと言われたのだ。金沢の近江町市場前での営業を皮切りに、佐渡島のロングライド大会では“ズッキーニ麺ポモドーロ”、山形の芋煮会では“手打ち冷やしラーメン”などに挑戦しながら、その想いを実現するために、佳代を乗せたキッチンワゴンは今日もゆく!(内容紹介より)

           

          『踊れぬ天使』(原宏一著 祥伝社)

           

          佳代のキッチンシリーズ”の第3弾である。全国津々浦々を旅しながら、美味しいご飯づくりに腕を振るう調理屋・佳代ちゃんの物語である。よっ、佳代ちゃん!

           

          今回、佳代ちゃんが訪問したのは、石川県金沢市、静岡県藤枝市、新潟県佐渡市、群馬県大泉町、山形県山形市、北海道稚内市である。彼女の場合、移動の途中でも寄り道して調理屋をやっているので、実際の訪問箇所はもっと多いのだが、エピソードとしてまとめられているのが上記の6ヵ所である。

           

          いずれのお話もおもしろかったのだが、「チャバラの男」と題された藤枝市のお話を簡単にご紹介しよう。

           

          流れ流れて藤枝市郊外の茶畑までやってきた佳代。山道の脇に車を駐めてひとりで日課の酒盛り?をした翌朝、誰かがコンコンと彼女の車の窓を叩いた。「まさか、こんな山のなかで変質者!?」と、催涙ガスのスプレー缶を手に「何か用ですか?」と窓を開けると、農作業姿の男がひとり立っていた。

           

          「そこ、うちのチャバラなんだけど……」

           

          チャバラというのは「茶原」と書く。要するに茶畑のことで(な〜んだ)、その男の茶畑の入口に図々しくも車を駐めていたのである。彼女は調理屋をやりながら全国を旅しているという話をし、迷惑をかけたお詫びに農作業を手伝わせてほしいと申し出た。食材について学ぶ、滅多にないこれはいい機会と考えたのだ。

           

          男は玉木と名乗った。東京の大手企業で働いていたが、地元の静岡に転勤となった。そこで知ったのは、地元の名産であるお茶農家が存続の危機に瀕している現状だった。そこで彼は一念発起し、脱サラしてお茶農家になることを決めたのだという。

           

          ペットボトルのお茶などは人気があり、種類も豊富だし、どうしてお茶農家が苦戦するのかわからないという佳代に、そういうお茶には海外から輸入された安い茶葉が使われており、手間ひまかけて栽培される日本のお茶は高価で、逆に売れなくなっている。だから廃業する農家が後を絶たないのだと玉木は教えてくれた。

           

          彼は放置されていたチャバラを手に入れた。そこで有機栽培の美味しいお茶をつくろうと頑張っているのだという。その決意、志に、いたく感激してしまった佳代である。

           

          彼女は午前中は玉木の畑仕事を手伝い、お昼を一緒に食べると、午後からは山を下りて町中で調理屋を始めた。最初は慣れない畑仕事に体中が悲鳴をあげたが、ようやくきつい作業にも慣れ始めたある日、畑にひとりの女性がミニバイクに乗ってあらわれた。玉木の妻の友美である。彼女は玉木に用事だけ伝えるとさっさと山を下りていった。どうやら夫の仕事を手伝うつもりはないらしい。

           

          それは仕方がないと玉木はいう。友美は玉木の元部下で、ふたりは職場結婚だ。ところが、東京から静岡へと転勤になって、思い描いていた結婚生活が狂っただけでなく、夫が突然お茶農家になるなどといいだしたのだ。そりゃあカチンとくるでしょう、非協力的なのもしょうがないと玉木は苦笑する。それを聞いた佳代は、ひとりで農作業を頑張る玉木の応援にますます力を入れるのだった。

           

          ところで、佳代には弟がいる。東京の経済新聞紙で記者をしている和馬である。両親が姿を消してしまった佳代にとって、和馬は唯一の肉親だ。彼女はときどき思いだしたように電話をかける(大体いつも酔っ払っているときにね)。このときも、玉木から聞いた事情をいろいろと一方的に話して聞かせたら、「つまり姉ちゃんそいつに惚れちゃったわけね」と和馬がいいだした。

           

          もちろん全否定の佳代である。しかし、弟にそういわれて自分が手伝っている理由はそういうことなのだろうかと、酔った頭で考えるのであった。和馬はさらに、このままいけば修羅場を迎えることになるのだから、いまのうちに手を引けよといわれる始末である。あらま

           

          そうこうするうちに、玉木のほうに変化があらわれた。農作業のあと、佳代がつくったお昼ご飯を一緒に食べていたのだが、それは遠慮したいという。どうやら友美が玉木にお弁当を持たせるようになったらしい。そりゃあ、どこの馬の骨とも知れぬ女とふたりで、夫が仲良くお昼を食べてるなんてちょっと許し難いよね。早くも修羅場の到来かっ!?

           

          そして、その日がやってくる。佳代が食材を入手するためにスーパーで買い物をしているところに友美があらわれて――。

           

          結論からいうと、佳代の淡い恋心が成就することはなく、というか、離れていた夫婦の心をピッタリと寄り添わせるお手伝いをすることになったのである。とほほ

           

          ちなみに、今回の旅では佳代の恋愛はそっちのけで、彼女がキューピッド役を務める話が続出する。そのどれもがいいお話なんだけど、ぼくがこのチャバラのお話がいちばん気に入ったのは、別れ際のシーンがとても爽やかで印象的だからだ。気になるひとはぜひ読んでみてね。願わくば、次回は佳代ちゃんに幸多からんことを!


           

           

          JUGEMテーマ:最近読んだ本

          久々に女の子が登場!

          2017.08.27 Sunday 18:47
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            この週末は好天に恵まれ、絶好の散歩日和でした。

            まだまだ陽射しは暑いけれど、吹く風には秋の気配が混じってきましたよ。

             

             

            上流へ向かう遊歩道。一度きれいに刈られた夏草がまた生い茂ってきました。目に鮮やかです。

             

             

            キジバトが川面に下りて涼んでいました。まだまだ暑いからね。クルックー

             

             

            微動だにしないアオサギさんはとってもクールです。

             

             

            こちらも目許が涼しげなハクセキレイさん。

             

             

            上流で見かけたカワセミくん。くちばしの下がちょこっと赤く見えますね。女の子なのかな?

             

             

            「さあどうなんでしょうねぇ〜」と首を傾げるカワセミくん(……なわけないか)。

             

             

            「どうでもいい話ですな」「まったく」

             

             

            「私もどっちでもいいと思うけど」

             

             

            「じゃま、そういうことで帰りますか」「そだね」

             

             

            とまあ、これらはいずれも土曜日に撮影したものです。この日はこのあと、久々にいい場面に遭遇!

             

             

             

            2羽のカワセミくんです。場所は小学校と中学校に挟まれたあたりです。

             

             

            同じ方向を向いてます。何を見てるのでしょうねえ? このあと、向かって右側の子が左側の子に寄っていくと……

             

             

            おっと、左側の子は久々に見る女の子です。ラッキー! 

            なお、この2羽の様子は下の動画でも見ることができます。短いし手ブレしてるけど許してね。

             

             

             

             

            ということで、久々にカワセミの女の子を見ることができた土曜日でした。うれしいです!

             

             

            で、日曜日のきょうは……

             

             

            ほとんど何も撮っていません。カワセミくんは飛んでるところしか見てないし……。

            唯一撮ったのが……

             

             

             

            ゴルゴ13だニャ。

             

             

            ではまた来週!

             

             

             

            JUGEMテーマ:おでかけ・散歩


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            豊増さくらと乳がん患者会bambi*組
            すべての女性の皆さんに読んでいただきたいとつくった本です。
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