魅惑の“変人”が登場!――隠蔽捜査

2016.09.28 Wednesday 23:08
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    竜崎伸也は、警察官僚である。現在は警察庁長官官房でマスコミ対策を担っている。その朴念仁ぶりに、周囲は「変人」という称号を与えた。だが彼はこう考えていた。エリートは、国家を守るため、身を捧げるべきだ。私はそれに従って生きているにすぎない、と。組織を揺るがす連続殺人事件に、竜崎は真正面から対決してゆく――警察小説の歴史を変えた、吉川英治文学新人賞受賞作。(内容紹介より)

     

    『隠蔽捜査』(今野敏著 新潮文庫)

     

    このブログでは、本著者作品の“安積班シリーズ”をいくつか紹介している。本書は別のシリーズになる。ぼくは知らなかったのだが、すでにテレビドラマ化もされているそうだ(ホントものを知らないひとだね、じぶん……)。

     

    警察小説であるが、主人公は刑事ではない。警察官でもない。警察庁に勤めるキャリア官僚である。所属は総務課で課長職にあり、警察庁長官官房のマスコミ対策を担う、エリートコースに乗っている男である。

     

    省庁のキャリア官僚といえば、気位が高く出世こそが第一で、市民の感覚とはかけ離れた人物を想像するひとも多いだろう。本書の主人公・竜崎もご他聞に漏れない。東大しか大学としての価値を認めず、難関の私大に合格した息子に対して、一浪して東大を再受験するように強いるし、家庭のことは妻に任せっきりで、自分の仕事は国家を守ることだと口にして憚らない。まあ、家庭のことを奥さんに任せっきりというのは、別にキャリア官僚に限ったことではないかもしれないけれど、いずれにせよ、「やれやれ」な人物なのである。

     

    正直、当初は“やな奴”という姿ばかり描かれていくのだが、次第にその様相がちがってくる。

     

    事件が起こる。かつて女子高生を惨殺した若者たちがいた。当時未成年であったがゆえに、彼らは数年で釈放された。そのうちのひとりは、いまは暴力団員となっている。その男が殺された。警察では、暴力団員同士の諍いという見立てと、殺された女子高生の関係者による復讐の両面から捜査に当たった。だが該当する人物は捜査線上に浮かんでこない。

     

    やがて次の事件が起こる。若い頃に事件を起こしてひとを殺し、未成年だったために早く出所したという経緯を持つホームレスが殺されたのだ。ここで事件の構造がおぼろげに浮かんでくる――のだが、ここから先はネタばれになってしまうので、未読の方のために割愛することにしよう。

     

    ところで、この事件の捜査指揮をとるのが、警視庁捜査一課の伊丹という男で、竜崎とは小学校時代の幼馴染みである。明るく豪胆な人柄で多くの部下に慕われる伊丹は、竜崎とは対照的な存在といっていいだろう。その伊丹に対し、竜崎は小学校時代にいじめられたというコンプレックスを持っている。このふたりのキャラの設定がとてもユニークである。

     

    さらに、竜崎にとっては個人的な事件が起こる。しかも、彼の官僚としてのキャリアを根こそぎ奪うかもしれない身内の不祥事である。このふたつの事件をとおして、竜崎という男の本性があらわになっていく。「変人」の変人たる所以が明らかにされるのだ。そしてそれは、かつてない警察小説のキャラクター誕生の瞬間でもあった。

     

    当初は朴念仁のように見えた竜崎が、次第に魅力的(といっていいかな……)に思えてくる。そして、警察機構内部の人間性を問うドラマに焦点を当てている。そこが新しい警察小説なのである。

     

    ちなみに、新しいとはいっても初版は2005年だけど……。ということで、未読の方はぜひ!

     

     

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    きょうのカワセミくん

    2016.09.25 Sunday 17:15
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      今週は休日がたくさんあったのだけれど、きょうを除いていずれも雨だったため、散歩に出られませんでした。やっと雨があがって、きょうは妻と一緒に散歩に出ました。

       

      ジュニアっぽいですが……。場所はいつもの場所(三沢橋)よりも少し下ったところです。

       

      こちらは散歩が終わって戻ってきたときのもの。三沢橋の近くなのでジュニアかな? 上の写真と比べてどうでしょうか。同じ子に見えますか?

       

      これも同じ子の写真です。視線の先には……もう1羽のカワセミが! このあと、あとからやってきたカワセミくんに追いかける形で、2羽は上流へ飛んでいきました。どちらかは戻ってくるのではないかと、しばらくその場で待ってみましたが帰ってこず……。ぼくも散歩を切り上げて家に戻りました。

       

      今週も、程久保川にはカモくんたちが結構いました。だが、先週チラッと見かけた気がしたジョウビタキの姿はなく、準レギュラーをめざしているイソシギさんの姿もありませんでした。残念!

      ということでまた来週です。

       

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      底なしの熱さを感じさせる新しい波――流

      2016.09.23 Friday 23:09
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        何者でもなかった。ゆえに自由だった――。
        1975年、台北。偉大なる総統の死の直後、愛すべき祖父は何者かに殺された。内戦で敗れ、追われるように台湾に渡った不死身の祖父。なぜ? 誰が? 無軌道に生きる17歳のわたしには、まだその意味はわからなかった。台湾から日本、そしてすべての答えが待つ大陸へ。歴史に刻まれた一家の流浪と決断の軌跡。(内容紹介より)

         

        『流』(東山彰良著 講談社)

         

        本著者作品初読。昨年上半期の芥川賞を受賞した「火花」の又吉さんと一緒に、授賞式で直木賞受賞者として並んで写っていたのが本著者である。顔を覚えているかどうかはともかく、「ああ、あのひとね」と覚えているひとも結構多いことだろう。又吉くんフィーバーの陰に隠れてしまった感はあるが、正直、本書はものすご〜くおもしろかった! 直木賞選評者の先生方がベタ褒めだったことも納得の出来映えである。

         

        ネタとしては結構重いテーマといっていいだろう。「台湾は中国なのか?」という政治上の問題を扱っており、ぼくら日本で生まれ育った凡庸な日本人にとっては、その情景を容易に思い描くことも、本書の主人公たちに自己投影することも難しい部分がある。また、台湾人や中国人の名前がたくさん出てくるので、最初はちょっと読みづらくもある。

         

        それにしても、こういうお話は、得てして同胞向けの小難しいアイデンティティーを問うような内省的なものになりがちだと思うのだけれど、本書はそういう陥穽にはまらないで済むような軽妙さがある。かてて加えて、ミステリの要素もあれば、なにより青春小説としての“熱さ”がハンパなく溢れている。それらが優れたフィルターとなっているのだ。そして、凡庸なぼくらに対し、「こんな世界の在り様もありまっせ!」ということを愚直なまでに真っ直ぐ伝えてくれる。そこに嫌みはない。これこそが“文章の力”というものだろう。じつに素晴らしい!

         

        たくさんのひとがすでに感想を書いているので詳しい内容紹介はしないけれど、本書を読んで、「これは新しい小説だ!」とぼくは実感したことを述べておきたい。そう、18歳のとき、大瀧詠一の『A LONG VACATION』を初めて聴いたときの、あの衝撃を思い出させるほどに……。

         

        本著者の過去の作品にも興味がありますが、むしろ次にどんなお話を書くのか……それを楽しみに待つことにしよう。本書を未読の方はぜひ!

         

         

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        天下に示すプロ魂――天下城

        2016.09.22 Thursday 17:11
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          我らの頼り、志賀城が落ちた。信濃での平穏な暮らしは武田軍に踏みにじられた――。その日こそが、戸波市郎太の原点となった。若者は軍師の弟子となり、戦国乱世に遍歴を続けた。だが師の逝去により、その道を絶たれてしまう。運命は、彼を名高き近江の石積み、穴太衆のもとへ導いたのだった。鍛えあげた戦略眼と最高峰の技術を受け継いだ男は、やがて日本一の城造りとなる。(上巻)

          戦国武将たちは、自城の守りを固めるため、城造り・戸波市郎太の力を求めた――。織田信長の再三の要請を受け、市郎太は覇王の言う「天下城」を造ることを約束する。その機会が訪れる前にも多聞山城や合戦前の長篠城を手がけ、技術を磨いた。乱世を平定した信長は、近江に城を築くことを決めた。伝説となった安土城の栄枯盛衰。そして数奇な運命を生きた鬼才の生涯も幕を閉じる。(下巻内容紹介より)

           

          『天下城(上下)』(佐々木譲著 新潮文庫)

           

          北海道警シリーズなどの警察小説で人気の著者だが、ぼくが初めて読んだのは第2次大戦3部作だったし、企業小説もおもしろい。どんなジャンルのお話を読んでも期待を裏切らない素晴らしい作品ばかりである。今回は歴史小説で、そこに企業小説をミックスしたような趣きのお話だ。

           

          時は戦国時代。市郎太の生まれた信濃の佐久は、甲斐の武田軍によって城を奪われ、市郎太は家と家族を失った。皆殺しにされたのだ。彼はまだ歳若かったために殺されずに済んだものの、親類で兄弟のように育てられた辰四郎とともに、金山で働く鉱夫として売られてしまう。それが当時の一般的な捕虜の扱いだった。金山での労働は過酷を極めたが、ふたりはいつの日か武田に一矢報いることを目標に、苦しい日々を耐えて生き抜くことを誓った。

           

          やがて彼らに千載一遇のチャンスが訪れる。武田勢の援軍として金山の男たちは駆り出され、そこにふたりも加わっていたのだが、戦の混乱に乗じて脱走し、敵の軍勢に紛れ込んだのだ。

           

          辰四郎は武士として武田を討って功をなし、いつか再び佐久の地に凱旋することを夢見て、そのまま世話してくれた侍の手下として戦地を転戦することを選んだ。一方の市郎太は、戦の最中に出会った年老いたひとりの軍師の従者となった。その軍師は、中国の墨子を範として学び、また墨子のように生きることを目標としていた。そこに市郎太は惹かれるものがあったからである。墨子とは、中国戦国時代に生きた思想家であり、守城や戦術の指導者でもあった。

           

          師と仰ぐ軍師とともに諸国行脚をつづける市郎太は、やがて城の重要性に思いを致すようになる。城こそが軍略の要であり、落ちない城をつくることが戦に勝つためには必要不可欠だと知ったのだ。

           

          だが、師は旅の途中で病に斃れて帰らぬひととなる。かろうじて読み書きはできるものの、まだ充分に教えを受けていたわけでもなく、また何の経験もないに等しい市郎太に、軍師としての未来はなかった。行く先の見えないなかで出会ったのが、石積み職人という仕事であった――。

           

          戦乱の世に翻弄されながらも、城の石積み職人として一流の腕を持つまでに精進し、やがて方々の武将らから請われて石を積むようになったひとりの城づくりのプロの生涯を描いた物語である。

           

          市郎太は生涯、おのれの信じる正義を貫いた。織田信長をはじめとする名だたる戦国武将たちと相まみえても、媚びることなく泰然自若と接して恐れなかった。その芯にあったのは、日本一の城をつくりたいという思いであり、彼は自分自身に嘘をつくことを許さず、また相手との約束を果たしつづけた。これぞプロという職人魂を感じさせてもらった。

           

          彼がつくった安土城は焼け落ち、幻となってしまった。それがとても残念である。


           

           

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          今週のカワセミくん

          2016.09.19 Monday 11:31
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            きょうは3連休の最終日ですが、生憎の雨模様のため、自宅でおとなしくしていることにします……ということで、きのう、おとといの散歩で撮影した写真をご紹介。

             

            真剣な表情で獲物を狙うアオサギさん。程久保川には何箇所か段差があり、この流れをさかのぼろうとする小魚がいます。きっとそれを待っているのでしょう。雨が降って水が濁っているときには、カワセミくんも同じようにこういう場所で魚を狙っています。

             

            カワトンボの姿もそろそろ見納めでしょう。今週台風がやってきたら、いなくなってしまうと思います。

             

            カモたちが集まっていました。だいぶ数も増えてきたし、そろそろコガモちゃんが戻ってくるかもしれません。

             

            今週もいました、イソシギさん。程久保川の準レギュラーを狙っています(笑)。いつも1羽しかいないのが気がかりではありますが……。

             

            シギという鳥は長い足と長いくちばしが特徴で、海辺にいるイメージがあります。こうして見ると、小型ながら確かにシギだなぁ〜と思いますね。

             

            カワセミくんです。ジュニアではないと思うのだけれど、いつもの場所ではないので……自信はありません。

             

            よく見ると、くちばしの下が一部だけ赤くなっていますね。ふむ……

             

            上の2枚は土曜日のもの。こちらは昨日のものですが、同じ子でしょうか……。

             

            こちらは上と同じ子だと思います。

             

            くちばしの下に赤い部分がありませんから、土曜日に見た子とは違うようです。

             

            写真はないのですが、ジョウビタキの姿をチラッと見かけた気がします。ジョウビタキは寒い時期にだけ程久保川に顔を出します。秋も深まりつつあるということでしょう。ジョウビタキ、来週はお届けできるかな? ということでまた!

             

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