久々の読書案内です

2018.10.07 Sunday 09:06
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    いやはや、すっかりサボってしまった。もう読んでからずいぶん経つので細かいところは忘れているから、ちょっとした所感程度で何点か簡単にご紹介します。

     

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    小中高一貫校でスクールカウンセラーとして働く奥貫千早のもとに現れた高校1年の生徒・野津秋成は、ごく普通の悩みを打ち明けるように、こう語りだす。「ぼくは、人を殺してみたい。できるなら、殺すべき人間を殺したい」と。そして、千早の住む町に、連続一家監禁事件を起こした入壱要が暮らしていることがわかる。入壱は、複数の女子高生を強姦のうえ執拗に暴行。それでも死には至らなかったことで、懲役15年の刑となり刑期を終えていた。殺人衝動を抱える少年、犯罪加害者、職場の仲間、地域住民、家族、そして夫婦。はたして人間はどこまで「他人」を受け入れられるのか、「孤人」に向き合うことはできるのか――社会が抱える悪を問う、祈りに溢れた渾身の書き下ろし長編。(内容紹介より)

     

    『白い衝動』(呉勝浩著 講談社)

     

    ライオン・ブルー』を昨夏に読んで以来の久々の著者作品。なかなか考えさせられる作品だ。スクールカウンセラーの女性の許にやってきた男子高校生は「人を殺してみたい」という。いや、厳密には、「このままでは近いうちに自分は人を殺すことになると思う」と、己を俯瞰した視座から淡々と語るのだ。彼はその衝動をなんとかやり過ごそうとしていたが、同時にどこか自分の宿命であるかのように諦観もしているのである。そして、殺すに値する人間を発見したことで、いよいよ限界に近づいていく……といったお話だ。その人間は殺されるのだが、そのあたりから急にミステリ色が強くなり、謎解きがメインになっていく。殺したのは彼なのかと……。僕的にはそっちは刺身のつまみたいなもので、もっと本質的な問題(容易に結論が出ない問題)に最後まで挑んでほしかったなぁ〜という気がしてちょっと残念な読後感だった。おもしろいんだけどね。

     

     

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    1960年初夏、地理学者・京極勝の前に、思いがけない人物が現れた。ディック・チャンドラー。大戦前夜の1934年秋、ベーブ・ルースとともに全米野球チームの一員として来日した大リーガーだ。戦争を挟んで途絶えていた絆がよみがえるが、なぜディックは26年ぶりに突然来日したのか――。舞台は東京、横須賀、ボストン、そしてニューヨークへ……激動の時代、人生の地図を手探りで描こうとする男たちの友情と謎を大スケールで描く、歴史エンタメ・サスペンス! 書き下ろし。(内容紹介より)

     

    『1934年の地図』(堂場瞬一著 実業之日本社)

     

    著者の警察小説とはまったく毛色のちがう作品。1934年、ベーブ・ルースやルー・ゲーリックらの米メジャーリーグの選手たちが日本にやってきた。各地で試合を行なった彼らは、どこへ行っても熱狂的に迎えられたという。そんなオールスターチームに随行していたある選手と日本人通訳が、終戦から15年後に再開を果たし旧交を温める。だが、彼(元選手)の様子が次第におかしくなっていく。友人の日本人男性は、あることをきっかけに彼が当時、ある秘匿された使命をもって来日していたことを知る……といったお話。戦争という時代に翻弄された人びとの姿、意外な事実、儚い恋と友情そして別れ……。戦争をしてもいいことなんて、本当に何もないのだ。戦争反対!

     

     

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    仙台市内で被災した予備校講師・聡太が、避難所での友人との再会や、日常の復活の中で被災の深刻さを実感していく過程などを描く「現在」。転じて60年後、再度の大津波に見舞われた仙河海市を舞台に、防潮堤や放射能廃棄物の受け入れなどを描く「未来」――現在と未来の視点を交錯させながら、復興に生きる人々を迫真の筆致で描く物語。地方紙連載中から評判を呼んだ小説の単行本化。(内容紹介より)

     

    『潮の音、空の青、海の詩』(熊谷達也著 NHK出版)

     

    震災に見舞われた東北の街を舞台に、人びとの再生への営みや生きることの意味を問いただす一連のシリーズである。本作では、2011年の物語からいきなり2070年にタイムスリップするのでビックリしてしまった。おっと、そうくるか!

    著者が描く未来の姿はかなり悲観的といっていい。人びとは自然への畏怖を忘れようとでもするかのように、海と陸とを隔てる馬鹿っ高い壁(防護壁)を築き、自然災害を人智の力で抑え込もうとしている。ほかにも、明確に居住区域が分かれていて、一見すると理想的に思えるような仕組みが導入されている。そして、誰もそのことに疑いを持たない世界が描かれているからだ。しかし、ひとりの少年が謎の老人と出会い、「未来」という時間が「現在」「過去」へと有機的につながっていって化学反応を起こしはじめる。「ターミネーター」や「時をかける少女」的な要素も加わった、なかなかおもしろいお話です。

     

     

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    宗教象徴学者ラングドンは、スペインのビルバオ・グッゲンハイム美術館を訪れていた。元教え子のカーシュが、「われわれはどこから来たのか」「われわれはどこへ行くのか」という人類最大の謎を解き明かす衝撃的な映像を発表するというのだ。カーシュがスポットライトを浴びて登場した次の瞬間、彼は額を撃ち抜かれて絶命した。カーシュ暗殺は、宗教界によるものか? もしくは、スペイン王宮の差し金か? かくして、誰も信用できない中でラングドンと美貌の美術館館長・アンブラは逃亡しながら、人工知能ウィンストンの助けを借りて謎に迫る!(上巻)
    ラングドンとともに逃げるアンブラは、スペイン王太子フリアンの婚約者だが、カーシュ暗殺にはスペイン王宮が関わっている可能性があるという。カーシュによる人類最大の謎を解き明かした映像を見るには、スマートフォンに47文字のパスワードを打ち込まねばならない。カーシュの部屋で手がかりを得たラングドンは、サグラダ・ファミリアに向かう。迫る暗殺者、正体不明の情報提供者。誰が誰を欺いているのか、先の見えない逃亡劇は、衝撃的な結末へ――(下巻の内容紹介より)

     

    『オリジン 上下』(ダン・ブラウン著 越前敏弥訳 角川書店)

     

    この作品の前作『インフェルノ』は感想を書かなかったのだけれど、何だかんだいってラングドン教授のこの知的エンタメシリーズはおもしろい。前作がパンデミックによる「人類の淘汰と滅亡」がテーマだったとすれば、今回は「人類という“種”の起源と未来予測」といった壮大な謎に大胆に迫っちゃおうという意欲的な内容だ。また、前作は手に汗握るサスペンス感が満載だったけれど、今回はもちろんそれもあるのだが、やっぱり謎の大きさに否が上でも目が行ってしまう。

     

    このシリーズは宗教がひとつのテーマとして底流にあって、ぼくなんか宗教にはあまり興味がないし、身近に感じたりする機会もほとんどないのでちょっと取っつきにくい感じは正直否めない。けれども、それを上回る知的な謎とドキドキハラハラをしっかり盛り込んでくるので、読み始めると一気に読めてしまう。これぞエンタメ!

     

    「われわれはどこから来たのか」については、まあ科学的にいろんなことがすでに判明しているといってもいいと思うが、「どこへ行くのか」についてはわかるようでわかららないし、やっぱり興味津々だ。「なるほど」というか「まあ、そういうことだよね、きっと」とは思うものの、それが人類にとっていいことなのか悪いことなのかはその後の歴史でしか判断されない。おっと、「何のこっちゃ!?」と思ったひとは、本書を読んでみるしかないでしょう。おもしろいので読んでも損はないですよ。

     

     

     

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