幸せな孤独は実在するのか!?――108年の幸せな孤独

2017.03.22 Wednesday 22:29
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    キューバに魅せられ、取材を重ねていた著者は、100歳間近の日本人移民が、今も暮らすことを知る。小さな島の老人ホームで暮らす島津三一郎。足跡をたどるなかで、移民たちの知られざる姿が浮き彫りになっていく。第二次世界大戦中、敵国人として強制収容された男性、キューバ革命に参加した日系人、そして――。フィデル・カストロが率いた独裁国家で、誇りを持ち、懸命に生きた移民たちに光を当てたノンフィクション。(内容紹介より)

     

    『108年の幸せな孤独』(中野健太著 角川書店)

     

    サブタイトルが、「キューバ最後の日本人移民、島津三一郎」。2016年、異国の地キューバで108歳まで生きたひとりの日本人移住者・島津三一郎(みいちろう)さんの人生を、キューバの歴史や移民の暮らし、彼らの証言などとともに描いたノンフィクションである。

     

    なぜキューバかというと、著者が初めての家族海外旅行先がキューバで、そのときの印象が強烈だったからだという。しかし、家族旅行でキューバとは……ちょっと驚きである。

     

    さて、「日系人」といえばブラジルやハワイなどを思い浮かべるひとも多いと思うが、日本から移民として渡った先の国は多岐に渡る。中南米に多くの日本人が渡っていて、キューバも例外ではない。だが、本書を読むまでキューバに渡った日本人移民がいたことをぼくは少しも知らなかった。

     

    そもそもキューバに対する知識もかなり“アバウト”である。カストロ、社会主義、ラム酒、サルサ、野球が強い……その程度しかない。しかも言葉として知っているだけで、詳しいことはほとんど知らないという情けなさである。あーあ

     

    キューバへの日本からの移民(一世)の歴史は戦前にさかのぼる。いわゆる「出稼ぎ」だ。サトウキビ栽培で一財産築き、故郷に錦を飾るというのが彼らの渡航動機だった。だが、さまざまな事情から現地にとどまることになったひとも多い。いちばんの理由は経済的な事情のようだ。また、第二次世界大戦が始まると、敵性国民として日本人は収監された歴史もある。島津さんも例外ではない。

     

    出稼ぎの話に戻る。当初、サトウキビ栽培は確かに稼げる仕事だったらしい。しかし、砂糖の価格が暴落し、稼ぐことができなくなった。島津さんは、先に渡航していた同郷の親類を頼ってキューバに向かったが、その頃にはすでにサトウキビで食べていくことはできなくなっていたらしい。いまとちがって情報を入手することがとても困難な時代だったから仕方がないのだろう。

     

    しかし、日本の農民は逞しかった。

     

    彼らは荒地を無償で借り受けて開墾し、そこで農業を始める。無償で借りることができたのは、土地が痩せているために2〜3年しか農地として利用できないからだ。地主にしてみれば、日本人が農地としてせっせと開墾してくれれば、のちの土地利用のために石ころを取り除いたりといった基礎的な工程を省くことができるというメリットがあった。日本人は勤勉だし、地主たちは喜んで土地を提供したようである。

     

    土地を借り受けた日本人移民たちが栽培したのは西瓜である。フルーツは海外、お隣のアメリカに輸出することができる食材だったからだ。そして、美味しい西瓜を育てるノウハウも彼らにはあった。

     

    キューバでも西瓜は作られていた。しかし、あまり美味しくなかったそうだ。日本には「摘果」という技術がある。いわゆる「間引き」だ。いくつかの実だけを残して、あとは早い時期に摘んでしまう。すると、残った実が大きく、美味しく育つ。「日本人がつくる西瓜はうまい」と評判は当然のことだったようである。その頃が、日本人移民にとっての最盛期といってもいいだろう。なぜか?

    のちにキューバ革命が勃発し、キューバはアメリカから国交を断絶されたからである。西瓜を高く買ってくれるところがなくなったのだ。

     

    キューバ革命の話も興味深かった。フィデル・カストロも島津さんと同じく2016年に亡くなったことは記憶に新しい。キューバ革命後の国の運営についてはいろいろと是非はあると思うのだけれど、本書のカストロさんは国民に平等な暮らしを付与するために尽力した人物として描かれていて、ぼくはとても好感を持った。みんなが幸せに暮らせる理想の国をつくろうとしたのだ。残念ながら、うまくはいかなかったけど。

     

    まあ、そんなこんなで出稼ぎが出稼ぎでなくなってしまった移民がほとんどとなった。帰りたくても帰れない、そんな状況から抜けだすことができなかった。島津さんもそのひとりだったのだ。

     

    だがしかし、である。

     

    望郷の念がある限り帰国を考えないはずがない。貧しいとはいえ、日本に親戚がいるわけだし、帰ろうと思えば帰れたのではないか。にもかかわらず、その選択をしなかったのはなぜなのか?という点が、本書の大きなテーマでもある。

     

    その答えとして、著者は『108年の幸せな孤独』というタイトルをつけた。果たして「幸せな孤独」というものが本当にあるのだろうか?

     

    ぼくは、ひととつるんだりするのは結構苦手なタイプだから、その気持ちがわからないでもないのだけれど……。もちろん、島津さんが何十年ものあいだ、まったくの孤独だったとは思わない。でも、自分の生まれ育った土地を遠く離れて暮らすことの寂しさを思うと、なかなか理解が及ばないのも確かである。ぼくだってめったに実家に帰ることはないけれど、でも帰ろうと思えばいつでも帰ることができる。日本の反対側の国ではそうはいかないだろう。

     

    死の間際、島津さんの胸に去来したものは一体何だったろうか。その答えは永遠の謎となってしまった。

     

     

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